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東京地方裁判所 平成10年(ワ)23384号 判決 1999年3月04日

原告 有限会社ケープラン商産

右代表者取締役 A

右訴訟代理人弁護士 片岡剛

被告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 小沢征行

同 秋山泰夫

同 香月裕爾

同 露木琢磨

同 宮本正行

同 北村康央

同 小野孝明

同 安部智也

同 御子柴一彦

同 上野和哉

同 山崎篤士

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

三  本件につき当裁判所が、平成一〇年一〇月一九日にした平成一〇年(モ)第一二九四三号売却のための保全処分の執行停止決定はこれを取り消す。

四  この判決は、三項にかぎり仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告が、訴外C、同D、同E及び同株式会社ヒューマン・マネージメント・システムに対する東京地方裁判所平成一〇年(ヲ)第二一二〇号売却のための保全処分申立事件の保全処分決定に基づいて、平成一〇年一〇月八日別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)になした保全処分の執行はこれを許さない。

第二事案の概要

本件は、根抵当権者であり差押債権者である被告が、売却のための保全処分の決定(民事執行法五五条二項)に基づいて、本件建物につき執行官保管の保全処分の執行をしたところ、原告が、本件建物につき転借権及び本件建物内の什器備品につき所有権を有しており、平成九年六月二三日から本件建物につき占有していると主張して、右保全処分の執行の排除を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  本件建物は、訴外株式会社ヒューマン・マネージメント・システム(以下「訴外会社」という。)の所有である。(甲一、弁論の全趣旨)

2  被告は、本件建物の根抵当権者であり差押債権者(なお、差押登記は、平成五年六月二九日になされている。)である。被告は、民事執行法五五条二項により売却のための保全処分を申し立て、東京地方裁判所は、訴外会社、同C(以下「訴外C」という。)同D及び同Eの本件建物の占有を解いて、執行官に保管を命じる保全処分決定をした。右決定に基づき、平成一〇年一〇月八日本件建物に執行官保管の保全処分の執行がなされた。(甲一、三、乙五、弁論の全趣旨)

二  原告の主張

訴外Cは、平成五年四月一日、本件建物を訴外会社から賃借し、本件建物を使用して、主として自動車を担保とする金融業を営んでいた。訴外Cは雇用していたAに対し右事業を譲ることを申入れ、Aは右申入れに応じ、右事業を、原告を設立して原告が営むことにした。Aは、平成九年六月二三日に、原告の設立登記をし、同日、訴外Cと原告代表者Aは、本件建物につき訴外Cと原告間の賃貸借契約を締結し、右賃貸借契約締結に際し、本件建物内の什器、備品について、訴外Cが原告に贈与する旨の贈与契約を締結した。原告は、平成九年六月二三日以降、本件建物を直接占有している。原告は、本件建物の賃借権、本件建物内の什器、備品等の所有権に基づき保全処分の執行の排除を求める。

三  被告の反論

原告が、平成九年六月二三日以降、本件建物を占有した事実はない。

仮に、原告が、本件建物を占有しているとしても、被告に対抗できない。

第三当裁判所の判断

一  証拠(乙三ないし五、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

1  東京地方裁判所は、被告の売却のための保全処分の申立により、平成九年七月二八日、訴外C、同D及び同Eに対し、本件建物からの退去及び訴外会社以外の者への本件建物の占有移転の禁止を命じ、訴外会社に対し、訴外C、同D及び同Eを本件建物から退去させること並びに本件建物の占有移転禁止及び占有名義変更の禁止を命じ、執行官に対し、訴外会社、同C、同D及び同Eに対する右各命令についての公示を命じる保全処分決定(平成九年(ヲ)第二一一三号売却のための保全処分命令申立事件)をした。

執行官は、右決定に基づき、平成九年八月八日の午後一時から二時四〇分の間、公示書を本件建物のうち一〇二号室及び一〇三号室の壁面に貼付して保全処分の執行をした。訴外C及び原告代表者Aは、右執行に立ち会っていた。Aが、右執行に際し、何らかの異議を執行官に申し立てた事実はない。

2  平成一〇年一〇月八日、本件建物に執行官保管の保全処分の執行をした際に、執行官は、1項記載の公示書が一〇二号室及び一〇三号室の壁面に、異状なく、貼付されていることを確認している。Aは、右執行に際し、執行官に対し、訴外Cから本件建物を賃借し平成九年六月二三日から占有している旨異議を述べた。しかしながら、平成九年八月八日から平成一〇年一〇月八日の執行に際し異議を述べるまでの間、原告代表者Aが1項記載の執行につき異議を執行官に述べた事実はない。

二  一項記載の事実によれば、原告代表者Aは、原告が占有を開始したと主張する平成九年六月二三日の後である平成九年八月八日の一1項記載の執行に立ち会いながら、執行官に原告の占有を主張せず、平成九年八月八日の後も、本件建物に継続して公示書が貼付されていたのに、原告の占有を主張しなかった事実が認められること、一1項記載の執行に関する執行官作成の執行処分調書(乙四)に、本件建物についての原告の占有を窺わせる記載は全くないことからすれば、原告が平成九年六月二三日以降本件建物につき占有権を有する事実がないことが容易に推認される。更に、原告が平成九年六月二三日以降本件建物を占有していた事実がないことは、本件建物の占有を取得した原因と原告が主張する。原告と訴外C間の本件建物の賃貸借契約及び本件建物内の什器、備品等の贈与契約がなかったことを推認させる。

三  民事執行法三八条一項に言う「譲渡又は引渡を妨げる権利」として原告が主張する権利が、本件建物の占有権なのか本件建物の転賃借権なのか本件建物内の什器、備品等の所有権なのかは必ずしも明確ではない。そもそも、本件建物内の什器、備品等の所有権は、本件建物の「譲渡又は引渡を妨げる権利」ではないと解されるし、また、占有を伴わない債権的な賃借権の場合、賃貸人である訴外Cが執行官保管の保全処分決定の名宛人、相手方であるときには、右債権的な賃借権、言い換えれば原告の訴外Cに対する本件建物の引渡請求権は、「譲渡又は引渡を妨げる権利」ではないと解されるが、いずれにしても、二項のとおり、原告には、本件建物の占有権、本件建物の転賃借権及び本件建物内の什器、備品等の所有権のいずれをも有することが認められないから原告の第三者異議の訴えは理由がないのでこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮武康)

<以下省略>

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